ECの視野から見た世界の日本化とサービスデザイン

21世紀は世界の日本化現象が起きるなとFacebookやTwitterのつぶやきレベルの感覚で思っていたのだが、この言葉で調べてみると、そこそこ世界の日本化という話や本が存在することに気がついたので、検索エンジンのエントリーに連ねておこうと思って、この記事を書いた。

世界の日本化でぐぐってみると、いくつかの論点があるようなのだが、僕が思っているのは単純に、

「ITの進化によるサービス性の向上」

という部分にある。

日本が世界に誇れる部分は、「そんなに悪い人はいない」というところ。

ECのプラットフォームビジネスに携わっていてつくづく思うところで、その代表的な例として後払い決済というものの存在である。後払い決済は、僕が知ってる限り、ネットプロテクションズという会社が、ネット経由の後払いというビジネスモデルを成立させ、それを真似したいくつか会社が生まれ、近年、GMO-PGとZOZOがパートナーを組んだ「ツケ払い(商標?)」で、この支払いスキームが一躍有名になったのは記憶に新しい。

このビジネスはネットショップの注文に対して、代金を頂戴することなく先に商品を送ってしまい、お支払いは後からよろしくというビジネスである。後払いは昔からあるにもかかわらず、zozoが始めた瞬間に批判が出始めたのは面白い話だった。

クレジットカードも後払いと言えるが、クレジットカードの審査が通らない人でも後払いが通る可能性があることが大きな特徴。また、不正利用されたクレジットカードで商品が購入された場合には販売店がその存在を被る、すなわち販売店は商品を失った上に返金責任が発生するというものなのに対して、後払いは基本的に後払い業者がそのリスクを負う。

その分、手数料率は後払いのほうが高く、直感的にはリスクが高そうなビジネスである。一定の貸し倒れ率を維持しないと利益が出ないが、ZOZOのツケ払い後にGMO-PG社の決算に大きく影響を与えたのも記憶に新しい。また、このビジネスの最初の立ち上げたネットプロテクションズ社のことを考えると、なかなかヘビーなアイディアだったことは想像がつく。

仮に安全側に倒した完全な与信モデルがあっても実際にサービスを提供しないことには、ビジネスとしては前に進めない。ビジネス規模を実現するためにも、ある程度チャレンジをしていく必要がある。全く与信実績がない若年層に商品を届ける行為は、与信を提供する以前に、与信を買っている行為だとも言える。

もし、一度目の商品送付で支払いがNGだったら、その人はブラックリスト扱いになる。しかし、その後の取引ではECにおいてはリアルタイム与信をすることで事前に購入をさせないことができるので、いわばコストをかけて信用情報を買っているとも言える。GMO-PGのツケ払いも、決算情報に与信モデルは調整中とあったそうだが、ZOZOの行動履歴とセットで与信を買っていると考えればこそ、未来への期待がつながるものと考えられる。

それをひたすら続けて、横展開していくと、次の購入の際にはリスクを減らすことができる。このような多少無謀そうなビジネスが、一定の貸し倒れ率で収まることでビジネスが成立するようになったのは、何より日本固有の特性だと言えるのはないのだろうか?

このことから「日本人にはそこまで悪い人は多くない」と考えることができる。

とは言え、同じ人間なので、別に日本人だけが特別なDNAを持っているわけではない。日本固有の教育システムや、ムラ社会的な価値観、島国根性などと言われる、ある種の人と人とのつながりの中にある相互監視のような世界の中で、悪いことをしないほうが得策であるという裁定が働く人が多いということが想定される。

そして、タイトルの「世界の日本化」については、日本が空気として持っていた世界観をITが実現する。

友人のツイートで、アメリカのAmazonの配送がリアルタイムトラッキングされるようになったという話を見た。同時に、これまで、あまり信用できなかったサービスの信頼性が向上してきたと書いてあった。

また、昨今、中国のアリババが運営する芝麻信用を活用した信用スコアの仕組みが流行っていると聞く。

日本の空気にあった、人のつながりによる相互監視的な社会の仕組みを、別の国ではインターネットを下地にした監視システムによって実現する。ちゃんとUXとしてのメリットが提供されていることが成立要件である。ユーザもプラットフォームもwin-winの構造でなくてはいけない。

そのような世界になって、相互のサービス信頼性が向上することを「世界の日本化」と考える。

それに対して、日本はどうなるのか?と考えると不明である。世界の日本化現象が日本に輸入された先の世界が見えていないからであるが、これまでの序列と新しい序列がぶつかりあう世界であることは容易に想像できる。

例えば、中国からは芝麻信用を活用したニュースや、どこでもQRコードが使える的なニュースのかたわらで、そのようなものが全然使えなかったり、無秩序に機械が壊されるような現地の話も流れてくる。また、評価システムが兼ね備わっていると言われていたUBERがインドで乗客がタクシードライバーにレイプされた事件もある。

評価システムの外には、これまで通りの世界が存在することとなるが、相互干渉する概念だったとしたら必ず影響が出るはずだ。つまり、スマホばかり気にして、古き良き日本が失われていくプンプンと語られることは容易に想像がつく

日本人は信用しやすいと言っても、日常的には犯罪自体は発生している。特に、他人の監視の範囲から超えたところでは個々の倫理観に問われる。311の震災のときに、暴動を起こさなかったことが海外から美談として語られたのも記憶にあるが、それは地震や津波が起きたという状況においても、人のつながりに基づく社会はちゃんと維持されていたからというのが大きかったのだろう。

このような状況で思うのが、現在の信用大国日本は、世界の日本化を踏まえたFintechの実験場として最適なのではないか?と思うところ。多少の無茶をやっても、日本人が相手であれば、そこまでの被害は起きない可能性が高い。しかし、かと言って非対面のインターネットである以上は、一定の問題が起きる。

機械学習の教師あり学習を使う場合、問題が起きなければ教師データを得られない。それゆえに、全員がいい人しかなかったり、審査を厳しくして社会の上位層や富裕層に閉じたビジネスを作ったところで世界に輸出できるモデルは作れない。一方でビジネスが脅かされるほどリスクが高いのではモデルの構築そのものに大資本が求められる。日本のFintechはスタートアップでも参入しやすい土壌だとも言える。

クレジットカードも海外クレカ決済を使えるようにするのと、日本のクレジットカードだけにとどめておくのでは、問題発生確率が雲泥の差である。世界だと想像以上にディフェンスのコストが発生するのに対して、日本であれば、それより前のイノベーションに専念しやすい。ベンチャーであればあるほど、これまでの規制や枠組みに捉えられない動きができる。(そう思えばこそ、メルカリの海外展開が、そのような道筋にも見えてくる)

ちなみに、あれだけ凄い技術と駅という日本人最強のUXを押さえているモバイルSuicaの決済利用率はまだ6%である。まだまだ決済そのものから可能性の塊だ。

2002年頃、アバターが韓国から輸入され、モバゲーやGREEが飛躍するきっかけになったが、その後に生まれたガラケー時代のノウハウに海外にも適用する流れは多々あったハズだ。i-modeのビジネスモデルがAppStoreの参考になった話などもあるが、i-modeに関しては3Gという通信インフラが世界に先行する土壌だったようだ。インターネットでようやく意識し始められた人と人とのつながりから生まれる信用社会に関しては、世界に先行している数少ない分野ではないかと考える。

今のうちにワールドワイドに通用するFintechの仕組みを日本人の信用に依存しないカタチで作り上げたサービスモデルであれば、「世界の日本化」にあわせて世界にも展開できる可能性が高いと考える。

参考文献:
ネットプロテクションズ
「1円も払ってないのに服が届く」 ZOZOTOWN「ツケ払い」滞納する若者たち
「ツケ払い」の貸倒率を推計してみた
日本化する世界と、クラウドによる人間評価システムの限界
芝麻信用とは?中国版信用スコアの仕組みについて
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