期待と実力のあいだ〜ショーンK氏問題に関するつぶやき

ショーンK氏の問題で、経験がないのに、それっぽく見せられることについて考えてみた。

ショーンK詐称騒動は現代のソーカル事件である : 金融日記

ショーンKは、ハーバードのMBAを取得し、世界的なコンサルティングファームを経営しているというホラ話で、のし上がった。しかし、彼は熊本の田舎から出てきた高卒の声優だったのだ。彼が最近行ったという講演のタイトルの一部を抜粋しよう。

●「ストラテジー・エコノミクス(戦略の経済評価):事業価値評価、バリュエーション」(日本経済新聞社主催)
●「管理か放任か!?伸びる企業の要諦:Corporate Entrepreneurship」(ダイヤモンド・ビジョナリー主催)
●「リーダーシップ&フォロアーシップ・マネジメント
 Self Assembly(自律的秩序形成)型組織」の作り方(地方銀行主催)
● パネルディスカッション「激震経済」モデレーター(読売新聞出版社主催)
●「なんとかしなきゃプロジェクト 本当の企業の社会貢献とは?」(JICA国際協力機構主催)
●「日本の競争力再評価とグローバル戦略の実践:インフラ輸出、PFI事業の可能性」(大和証券グループ本社主催)
●「インド市場参入、事業拡大の成功要因分析」(経済産業省/インド商工会議所連合会 Federation of Indian Chambers of Commerce and Industry)
●「日本の教育:産学連携のダイナミズムを取り入れた知の生態系-スタンフォード大学Center of Integrated Systemsの学際教育をベンチマークに」(東京大学大学院情報学環・学際情報学府主催)
●「今、求められる次世代グローバル人材の資質と要件」(デジタル・ハリウッド大学大学院)
● ポストG20グローバル時代におけるグローバル事業戦略とマネジメント・スキル(ダイヤモンド社主催)ほか

ポストモダンの思想家たちが量子力学の言葉を散りばめたように、ショーンの講演のタイトルには、「知の生態系」「自律的秩序形成」「ポストG20グローバル時代」「戦略の経済評価」といった、コンサルティング会社や経営学の教授連中が作り出してきたバズワードが踊っている。

へー。いろいろやられていたんですねぇ。

彼は純粋な日本人らしいですが、英語力が高く評価されていたり、単純な経歴詐称とは一味も二味も違って、まさにテレビ向き、とも言える方だと思います。

波平が京大出身、マスオさんが早稲田出身、すげー、などという話もある通り、今後、VRでバーチャルなキャラがでてくれば、そのキャラはすべて「設定」という形での経歴詐称をするわけですから、テレビの向こうでしゃべってる人が、それっぽくしゃべるということに対して、その人の経歴はどれだけ正しい必要があるのでしょうか、とも考えられます。

本来MBAなどの学位を持っているような人がしゃべることを、そういう経験がなくても、これが可能になっているのは、知識を得る方法が開かれているからに他ならないわけですよね。その知識は、大学院でのみ得ることができるわけではないという素敵な時代だからこそできることと言えるでしょう。

その昔は、図書館で知にアクセスするために在学資格が必要だった時代があったこともあるでしょう。そのような参入障壁、差別化要素はインターネット時代にはなくなっています。それであれば、学位で得られるものとは何か?という部分に戻ってきそうです。

よく「勉強は大学に行かなくたって、やる気さえあればできる」という言説がありますが、ショーンK氏は、まさにそれをやって、人々に「それっぽく話すことに成功した」と考えると、そりゃ本当に凄いなと。

彼の言ってることに特に刺さるものはないと言う人もいますが、テレビのコメンテーターとして期待されるように、無難にそれっぽく話をして時間を埋める能力というのは、決して平凡なスキルだとは思いません。

それ故に、多数のコメンテーター枠に引っ張られていると考えれば、すごい発言をすることだけがテレビに求められている役割ではないということがわかります。

ー・ー

ただ、その偉業と、経歴詐称したことが許されるかというと別です。そもそも、学位という品質保証のお墨付きを詐称するのは問題です。

今食べた牛肉が、松坂牛であるか、違う場所の牛であるかは、美味しいUXと言う事実の前では些末な問題です。そもそも神戸牛やら松阪牛だったかは、宮崎牛がOEMしているケースもあると聞きます。その話を聞いた僕は宮崎牛に特別な愛着を持っています。

しかし、だからと行って、誰かれ構わず、松阪牛と名乗って良いかといえばそんなはずはありません。そこには松阪牛であるという期待が込められていて、それだけで価格に価値が上乗せされていたりするからです。

全く同じショーンK氏が、高卒であることを最初から公表していて、MBA取得相当の実績を前提としてコメンテーターに抜擢されているなら誰も文句を言わないハズですし、それを埋めるだけのビジネスの実績があれば、あれだけのイケメンだったわけですから、誰もほおっておくとは思えません。

上場企業が何故、オープンに株を購入できるか?と言うと、情報が適切に開示されていて、悪いことをしないというルールに則っているからです。それを実現するために企業側は、上場維持コストという多大なコストを支払って、自分たちが適切にビジネスを行い、ちゃんと情報を開示していることを保証します。

もし、それ自体が信用できないのであれば、安心して株を購入することはできません。それができるからこそ、沢山の投資家が、社長の顔すら知らないのに株を買って、期待値としてのPER(時価総額 / 純利益)を発生させることができるわけです。

学位についても、それと同じで、その人の実力は、まだ100%理解できなくても、学位において相応の品質保証ができているからこそ、一生懸命デューデリする機会コストをかけなくても一定の期待をかけることができるわけです。

もはや、誰でも学ぶことができる時代であるなら、学位に唯一残る価値だと思います。

それ故に、テレビのコメンテーターとして偉そうに評論した内容をお茶の間に流せるのも、期待値としてのPERがそこに存在しているから、と考えるのが良さそうです。

故に期待の根拠となったであろう、彼の実績に関しては、それが例え、コメンテーターとしての実力に関係なくても、保証されていないといけないのです。どんなにその肉が美味しかろうと、松阪牛と偽って売ったことが許されるわけではないのです。

ー・ー

僕自身がそうかもしれない話なのですが、少なからず、インターネットを通じて得られている評価と、リアルで仕事ができるか否か、などは連動しないと言われています。

ネットでは、すごく多くの人に評価されているけど、実際に仕事をしてみるとそうでもなかった、というケースがあります。「そうでもない」、というのは、仕事ができないというケースもあるでしょうし、傲慢な人だったとか、期待通りに動いてくれない、という話など、いろいろあるようです。こういう話は、みんな大人なのでネットにはあんまり出てきません。

ネットから得られている評価としての期待値と、実際の自分の仕事っぷりに差があれば、ネットで見かけた自分にかけてもらった期待に対して適切に応えられない、、、信頼を得られないということであり、それは僕自身にとっては、致命的に避けたいことだったりします。

しかも、根拠となるファクトそのものが曖昧な場合は、その期待値はどこかふわふわしたものをベースにしていくしかないです。そういうことは、世の中には多々存在します。この期待を、自分の実力よりも、他人に対して常に大きく抱かせられる人は、「自分を大きく見せるのが上手い人」と呼ばれたりします。どうも、ショーン氏の学生時代の評価がそういう人だったという証言もあるようですね。大人になっても貫き通せるのはロックです。多分、もう一生変わらない部分のように思えます。

ちなみに僕自信が、製造業から、Web業界に転職する時の社長には本当に感謝していて、1時間ぐらいしか話をしてないのに、転職を誘ってくれたおかげでいい形で、お給料も維持した形でスムーズにクラスチェンジをすることができました。当時は全く知りませんでしたが、安い安いと思っていた電気系製造業のお給料は、Web業界基準では決して安くないのです。こいつが開発者として使えるかどうかというのは、当時の自分を冷静に振り返ってみれば、相当の賭けだったように思えます。(というか、5年お世話になって、ちゃんとリターンできていたのか正直、不安である)

世の中には、そういう非連続的な期待をかけて、それが実現できるか?というのを試してみるタイミングというのが多々存在します。期待を受ける側はチャンスであり、期待を賭ける側は投資もしくは賭けと言います。

全てが昨日の実績の延長線上で、成功が予測されている世界ではないのです。往々にして会社員であるうちは気がつかないことだったりもします。

それ故に、僕も人に抱いてもらっている期待に関しては、出来る限り応えたいと思いますし、いつも期待通りに動けているだろうか?というのは気にしながら生きていたりします。逆に、人から期待されていないという事実を抱きながら生きるというのは、文字通り胃が痛くなる事案です。

山岸俊男氏の信頼の研究によると、「人から期待されたことをちゃんと遂行した時に信頼が生まれる」とされています。つまり期待されてないという事実は、信頼されるチャンスもないということになります。僕もそれなりに長く生きていれば、そういうことの一つや二つ思いあたるフシはありまして、それはそれは思い出すたびにため息をついてしまう部分だったりします。ちなみに年をとるということは期待されるチャンスや可能性が減っていくということなので、この先、恐怖しかありませんw

ショーン氏の失脚した部分は、今更どうにもならない部分なので仕方ないとはいえ、せっかく沢山の期待を受けていたのに、それが遂行できなかったショーン氏のお腹が痛い具合はどこか勝手に共感する部分でもあったりしていまして、そんなことを抱きつつダラダラ書いてみました。

【PR】ご意見、感想などは是非、mstdn.fmのローカルタイムラインでお聞かせください