なめらかな社会を生み出すFintechへの期待 – 三菱UFJ銀行 Fintech Challenge 2016に審査員で参加させていただきました

今回、仮想のAPIを開発し、そのAPIで活用可能な作品をハッカソンイベントでした。

Fintech Challenge 2016
Bring Your Own Bank ! とは?

ネットでは、え?仮想のAPI?今すぐ使えないの?という反応があったのは知ってます。それでもこれを作るのに半年かかったのだとか。

まだ全体としてこれがさくっと進められるかというと、必ずしもそういうわけでもなく。だらかこその試金石のイベント。要するに既存社会の山に比べて、スタートアップが貢献するお金の流れって圧倒的に小さいってことですよね。

それ故に大切なのは、未来へのビジョンをどう持てるか、という部分。

そういえばガラケー時代のスマホってこんな感じのこと言ってたよなぁ、とか思ったりも。

改めて、Fintechにおけるスタートアップの価値とは、世の中のAPIを使って、どう利用者主体に高いUXを提供するアイディアやビジョンを提供できるか、という部分を感じました。今回のハッカソンの意義は、さまざまな可能性を見るために開いたイベントという意味で、非常に価値の高いものだったと思います。

今回の参加者も金融系のベテランエンジニアやFintechスタートアップのエンジニアやデザイナーも参加する中でのチーム戦。特に上位チームはデザインや完成度、アイディアも含めて高い完成度だったのではないでしょうか。どこかの会社にコンサルに出して、数百万数千万で一つのアイディアを買ってくるよりも、こっちの方が楽しいと思います。

今回のイベントにおいて、一つの重要な制約が取り除かれていました。それは「手数料を考慮しなくていい」。これは高校の物理でいう「摩擦を考慮しない」というシンプルな状態でモデリングを行うのに似ています。

ちょうど、このイベントの最中にAlphaGoによる碁の話が話題になりました。が、改めて考えてみると、スーパーコンピュータがネットに繋がっているという超理想状態の戦いで、ストレスを感じないコンピュータが、完全情報ゲームである碁という競技において、心理戦で己の集中力を極限までに高められなければプロとしてやっていけない人間に負けていては、将来のことを考えると話になりません。

大局観という考え方も、必ずミスをする存在であり、それ故に発想の柔軟性を担保している人間だからこそ存在しうる概念であることを認めるべきです。それこそ融通の効かないコンピュータが、ビジネスで語られるような大局観で物事を見るのは、すぐには難しいでしょう。ルールそのものに情報の非対称性が存在しうることと、ルールが決まってない状態で、大局観に求められる「空気が読める」までは、まだまだ相当時間がかかることでしょう。少なくともAlphaGoはそこにアプローチしているようには見えません。

それらを整理した上で、コンピュータにできること、人間だからこそできることの研究が不可欠です。

現実には、AIでさえもモバイルとして、バッテリーに制約があったり、プロセッサに制約があることが圧倒的に多いハズなのです。おそらく持ち運べるモバイルという制約をルールに追加した瞬間に、まだまだ人間の方が強いのではないでしょうか(それすらも変わりつつあるようですが)。

それと同じく、金融取引における手数料の制約はビジネスの遂行において、大きな制約をもたらします。正確に言うと「本来、人力を前提としていた、既存の手数料体系が足を引っ張る限り制約が大きすぎる」ということでしょう。

Fintechなどでくくられる機械化とは、要するに、お金の流れのオートメーション化です。つまり、お金を払う明確なアクションをせずとも、Webやアプリやデバイスを介して、自動的にお金が流れている世界とも言えます。与信を行いできるだけキャッシュの流れを止めないというのも重要な方法論だと言えます(それ故ネットではクレカ決済が主流になっている)。

お金が勝手に移動することに対する人間の不安や社会問題を解決するところに、わざわざFintechという名前がつくのだと思います。明確な資金需要や、明確なニーズについては、既存の仕組みにおいて完成しています。今後はそこじゃなく、優れたUIやデバイス、もしくはアルゴリズムやビッグデータによる統計判断を通じて、自動でお金が流れる仕組みの確立、人間の行動における心理的、身体的な障壁を最小化することで、なめらかにお金が流れる状態 = UXを作るのがFintechの一つのポイントだと思います。

ところが、そこにおいて手数料という摩擦は、大きな壁を産みます。熱力学の法則において、永久機関が作れないのは摩擦の存在ですが、それと同じく手数料の仕組みは永久機関を生むことを阻みます。それ故に、その数値を最小化することが、永久機関に近いFintechを生むことに繋がります。取引に人間の意思決定というボトルネックをできるだけ介在させないことで、小さな小さなトランザクションの取引量を最大化し、トータルとして社会の効率性 = 企業としての利益が向上するビジョンが見えなければ、わざわざ手数料を下げたりして、首を締めるようなことをやる必要はないのです。

しかし、これはインターネットを支える通信の歴史そのものだと思います。モバイル通信のパケット単価は今でもバカ高いようですが、その上に乗るビジネスロジックで、今や毎月、数GBの無線通信が格安でできるようになっています。それによって動画やテキストの情報流通は飛躍的に向上しました。Twitterのようにどうでも良いテキストが毎日バンバン送れるようになったからこそ、世界で起きる最新の情報は瞬時に検索可能になりましたし、震災のような有事においても情報共有性が維持され、人々の不安は解消されます。

震災の時に、当時運営していたモバツイに出稿されていた人力による純広告契約はキャンセルされまくりました。これは人力の意思決定が介在するので、派手なバナーや広告企画のおいては自粛という方向に動くわけです。しかし、地味な文字しか書けないが、処理が自動化されていたGoogle Adsense/Adwordsはお金が流通していました。震災後のドタバタの中で、一度、予算をセットしておけば人力を介さないGoogle Adsense/Adwordsは経済を動かし続けたということです。つまり自動化された社会に大局観は不要だし、自粛による経済のストップなどという概念は不要なのです(もちろん単価は下がったけど。売り上げがゼロにならなかったのはGoogleのおかげ)

同じようにFintechが発達すると、人力の介する場面は減るはずで、手数料も下がるハズです。AlphaGoが証明したのは、コンピュータはめげないし疲れないということでしょう。だからコスト効率は高いわけです。単価におけるボロ儲けはできないかもしれませんが、トランザクション数が無限に増えることで経済の安定化、平準化をもたらします。

人間の意思による極端なストップアンドゴーの社会ではなく、なめらかな社会を産みます。問題は、高いパケット単価のような既存のビジネスよりも一つ上のレイヤーで、モノの流通、情報流通を担保する世界が生まれてしまうか、今の世界そのものがネイティブに生まれ変われるか、その戦いだということでしょう。

今後のFintech分野、しばらくは、現状の制約を前提とした仕組みが発達するでしょうが、今回のイベントでは、その手数料の摩擦係数を0にしました。それ故に、もっとぶっとんだアイディア、かつ説得力があるアイディアがあっても良かったのかもしれませんが、そこのビジョンはそうそう簡単に持てるものではないですね。これは、日常の制約が体に染み付いている金融のプロなだけだけでは難しそうですし、UXのプロなだけでも難しいと思います。両方の経験が混ざってこその大きなビジョンなので、今後の皆さんの成長に期待しましょう。今回のような考える機会を、とにかく増やすことが大切です。

どこかでチャンスが来るでしょうし、作る必要もあるでしょう。一人はちっぽけな存在でも、フットワーク軽く、動ける人間になっていくことこそが大切。

それ故に、このような一歩は、次なる動きにつながってほしいものです。本当にビジネスで何かを実現するのはこの先なので、まずは大きな一歩を創りだして欲しいと切に願います。もし、その動きに、今回、審査員として何か貢献できたのであれば、非常に幸いです。

# 改めて思ったのは、光ファイバー前夜のインターネットみたいな状態とも言える。ISDNとそのバックボーンにおける「信頼された通信を担保する」レガシーなアーキテクチャを応用した仕組みか、ADSLのような一旦、アナログ手段を利用してからの光ファイバーに移動していくか。専門家に言わせれば適当なアナログ通信でも信頼性の高い高速通信を実現した肝がTCP/IPというプロトコルでした。「実際に動いたこと」で信頼性が証明されたものと思われます。もちろんそこに対する技術の進化、インターオペラビリティの確保は不可欠だったと思います。

それと同じようなことが、ブロックチェーンや、今後出てくるオルタナティブな手段で、既存の仕組みにどう連動してくるか。その中で、それらの技術を担保するのが、国という単位の通貨の仕組みなのか、FacebookやGoogleと言った国をまたぐ存在が、新しい価値を担保してしまうか。少なくとも最初は非対面決済でもあるネットだけの世界なので、リアル社会で生きている人たちは、山の高さの違いに間違いなく甘く見ます。これはITの歴史が証明しています。
でも、それこそがイノベーションのジレンマと言われる部分ですね。USD、JPYで戦うのか、別の通貨体系で戦うのか、でも、その両者は間違いなくどこかで交差するハズです。その際の媒介者は、もしかしたらメタバースなのかもしれないですね。とにかく、鈴木健さんの書かれた「なめらかな社会とその敵」という言葉が、どこか頭のなかに蘇ってくるイベントでした。そろそろ読まないといかんな。。w

see also:
A Decade of Innovation ~ イノベーション10年の軌跡(Amazon Web Services ブログ)

なめらかな社会とその敵

なめらかな社会とその敵

  • 作者:鈴木 健
  • 出版社:勁草書房
  • 発売日: 2013-01-28
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