昔、warezというのがあった。ソフトの違法コピーをネットに置いて、そういうのが好きな人が、わかりにくいリンクや、データを分割してWebやFTPにデータを置き、パスワードなどを駆使して共有する世界だった。
しかし、warezはどこかの段階で一掃された。何故なら、どんなに偽装をしたからと言っても、見知らぬ他人にデータを流通させる以上は、論理的には全てが公開された状態だからだ。
後から考えれば、配信技術的には、ほんとたいしたことをやってない世界で、アングラアングラと調子に乗っていたよな、という話だったのではないかと思う。
よくサーバセキュリティを設計する上で、如何に世界を分割したり、個別化したり、必要な暗号鍵を秘匿するか?というのがセキュリティ=秘匿性、安全性の根拠だとすると、warezの世界の目的が違法コピーアプリや音楽データなどの生の情報流通である以上は、秘密鍵を含めた全てのデータは、簡単な手段で公開されている。単純にITリテラシーの問題で、すこし手順がややこしいだけに過ぎないのがwarezの特徴だった。
そうなってないとみんなが使えない。
だから、最初は内輪のノリだったとしてもそれが流行れば、情報が少なく、ややこしかったものは簡単に理解されるようになって、その結果として、書籍にもなってしまい、警察にも簡単に伝わることになって、この世界は死滅した。
そりゃそうだ。
その後起きたこととしては、僕らが知らないアングラのネットワークがあるだろうなってのと、P2Pによる高度な配信技術が出てきて誰が共有してるのかが表向きわかりにくくなった世界と、あとは、動画や音楽では、もっと正々堂々と共有してしまい毀損する価値をビジネスとして補填するプレーヤーが現れる新しい世界の3つになったように思える。
「アングラな情報」というのは、持っている人には楽しい。しかし、インターネットにその情報を書いた瞬間にアングラではなくなる可能性を秘めている。その上でアングラかどうかは、
「たくさんの人が興味を持っていないこと」
が前提になっている。例え、Google検索エンジンで検索が可能になっていても、誰もその言葉に興味がないのであれば、事実上世界に存在しない状態になったり、アングラのままでいられる。
そうではなく、そのキーワードに魅力があり、たくさんの人が興味を持った段階で、その情報は急激に公知になり、アングラではなくなる。
それは多くの人に消費されてしまうことで価値を失うし、もし法律に反していたらネットを経由して潰されるからだ。
つまり、良質かつアングラな情報は、
「ネットに書かないで、口頭伝承可能なローカルでのみ流通させるべき」
というのが、その価値を維持し続ける一つの手段だと思う。
でもそれでは、情報を知っている人はヒーローになれない。
その状態を維持しているものも、まだまだ世の中には沢山あるだろうが、特に若い世代の「ちょっとした街の噂レベル」のカジュアルアングラ情報であれば、ツイッターなどを通じて、あっという間に共有されてしまう。それを知ってることをバラすことが、その人にとってのコンテンツ性となり、楽しいからだ。
つまり、楽しいアングラな情報を共有するのが楽しいと思う人がいる限り、そのアングラな情報は潰される運命にあるということだと思う。
これは、結構、世の中、生き辛い流れに行くのではないかと思う。
危惧しているのは、法令に遵守し、正々堂々とした「王道の生き方」だけが持て囃される結果となり、アングラのギリギリの世界観で生きて行く人たちには、カジュアルにネットを通じて潰されるという世界ができているのではないかと、割と思うことがある。
多くの人がネットリテラシーを持ち、共有すべき情報を選別し、いらん情報はグローバルなネットに出さないというのが望ましい方向であり正論であるが、「いらん情報」への価値観は人それぞれ。それが簡単にリアルタイムにシェアされたり、検索できるようになった時点で、その判断を人の良識にのみ求めるのは難しいだろう。
バカッター騒動などは、ふぐの毒にあたって死んだ人のようなものと考えると(リベンジポルノのことを考えると心が痛むが)、「リスクを予見して、妄想ベースで適切にマネジメントする」なんてのは成立しない話で、「とりあえずやってみて、屍を教訓にみんなが学ぶ」というのが、世の中のあり方なのだと思う。それは公害しかりバブルしかり、ということなのだろう。
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