今日、代官山蔦屋で開催されていたコイニーのイベントに行ってきた。イノベーティブな商品を沢山集めて、すべてコイニーで買えますというイベントで、目玉商品として展示されていたテスラSの予約金がコイニーで決済できるようになったそうだ。これによって試乗会や展示会で気に入ったら、すぐにその場で手付金を支払って予約できるようになる。
昔、2002年にマツダのアテンザを購入した時にすごく悩んだのは、車は10年ぐらい乗りたいと思っていたのだが、アテンザはダッシュボードのパネルにオーディオが完全に組み込まれたデザインになっており、簡単にはオーディオ系を入れ替えることができないので、10年以内に車がものすごいネットと繋がって情報化してしまったらどうしよう?!と思っていたのだが、それは完全に杞憂だった。トヨタ自動車はKDDIの大株主にも関わらず、である。
それに対してテスラSは、ダッシュボードに17インチのタッチパネル液晶がついていて、AndroidベースのVCMというソフトウエアが動いている。この操作パネルはかつてPCのグラフィックカードで一世を風靡したNVIDIAが作っている。これがiPhone並にスムーズに動くタッチパネルで、車全体の操作ができるし、Google Mapsを使ってナビもできるし、車のバック映像も出るし、スワイプでサンルーフの開閉もできる。どうもオンラインでソフトウエアのアップデートができるだけでなく、クラウド経由で故障診断などもできるし問題対応等もできるらしい。さらにネット上にはテスラオーナーのコミュニティがあって、情報交換をしていたり、テスラを通じた輪が完全にクラウドをベースに実現しているらしい。
やっぱり使い勝手が自動車用組み込み機器という範疇ではなく、スマホ、タブレットなんだよね。そこらへんがやっぱり高いユーザビリティを実現していて、一言で言うとヌルサクの世界を実現している。(Google Mapsのスクロールがちょっと重そうなイメージはあったが。大画面の描画スクロールだからかな)自動車用組み込み機器というと「壊れてはいけない」「温度変化に強くなくてはいけない」ということを他の製品よりも1桁高い精度で追い求め、故にパーツのコストが高く処理は遅い。
テスラのVCMは、携帯からスマートフォンへの移行であり、日本のカーナビからAndroidのGoogle mapsに切り替えるのと全く似たような流れをイメージさせる。自動車は「安心」「安全」の本丸なのでスマホのようにはいかないと思うが、低コスト、スピード優先で作られたものをネットを活用したサービス・ソリューションでカバーし、顧客満足度をむしろ高めてしまう動きというのはDellの成功以来続くアメリカ企業の成功の秘訣である。そうこうしているうちに日本企業が強みとしてきた匠の技が製品性の土俵から外れてしまう流れに繋がっている。
アテンザを買う時に漠然とイメージしていた車の情報化は、日本企業ではなくテスラというペイパルマフィアによるベンチャー企業が実現してしまった。
今はハイブリッド全盛だが10年後は今のスマホのように、コンシューマ向けの自動車に関してエンジンは縮小し、新車のメインストリームは電気自動車にシフトすると思う。障壁は充電等のインフラの問題がどうなるか?!だけだろう。
その普及のポイントは機械工学としての自動車ではなくて、情報、通信、電気工学を結集したクラウドデバイスとしての自動車というパラダイム・シフトによって行われる。電気自動車の方がネットと親和性が圧倒的に高いということをテスラは証明してしまった。環境メリットしか打ち出せてない日本の電気自動車は、ハイブリッドと比べて普及するイメージも必要性も全く感じないが、テスラは「普及して欲しい」と思える大人のオモチャだ。本当のワクワクはこういうところにある。
テスラは、ダイムラー・クライスラーの他、トヨタやパナソニックの出資も受けているのだそうだ。別に日系企業がこういうイノベーションに対して知見や意識がないのではない。
とりあえず現状、日本のITの状況を見渡すと、コンシューマ向けのAndroidによるスマホビジネスは日本の複数企業では壊滅状態だし、自動車も自動車産業全体を見渡してイノベーションのジレンマ状態になってる可能性もありそうだ。また、ハードウエアは作れるだろうが、ソフトウエア、サービスソリューションが同じレベルのものを実現できるのだろうか。今のテスラSはまだGT-Rぐらいの値段のようだが、今後、テスラは300万円代の車も出してくるのこと、そこから先が真の勝負なのだろう。
どうもテスラに詳しい人に話を聞くと、テスラというのは、どうもロットで内装レベルのパーツの仕様が変わるときがあるようで、そういう混沌さがテスラコミュニティが必要になる重要なポイントという話を聞いたことがある。裏を返すとユーザーリテラシーに依存して不備を解決しようとするコミュニティマネジメントは、日本のメインストリームたるユーザーには結構難しいのではないだろうか。
だが問題は、そういう個々の良し悪しではなく、日本の自動車産業にとっては曖昧さの裏腹にあるであろう、スピード感が受け入れられるか?!というのは凄く気になる。
何より理念として「品質」と「安全」を優先しすぎた時にスピードが実現できないというのは、最近よくあるグローバルの負けパターンになってしまっている気がするが、今後どうなるのだろうか。
参考URL:
The Model S 17-InchTouchscreen Display from Tesla Motors on Vimeo.
Car Watch NVIDIA、Tegra VCMがテスラのEV「モデルS」に正式採用
EVの予約金などスマホ決済 米テスラ :日本経済新聞