1/15のMovida Schoolに呼んでいただいてデザイン思考についての話をしてきました。きっかけは、エンジニアtypeの連載に書いていた「スマホ時代の主役になりたい技術者は、「デザイン思考」と「のりしろ」を持つべき」という記事を書いたことで、Movida Schoolのitokenさんにお声がけいただきました。
ということで当日の資料を以下に貼り付けておきます。
「やりたいこと」をいきなり実現するものを作って、誰も使える人がいないという状況を避けるのが、デザイン思考のプロセスです。
元々がIDEOが大企業のデザインコンサルのために作った考え方で、全部、まるまるやると結構大変なプロセスなのですが、僕が通っているKMD(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)では、修士の人たちが授業でデザイン思考のプロセスを学んでいたりします。
このデザイン思考には根幹に「哲学とビジョン」というのがあり、「自分達が信じる未来象」を哲学として、そこから「私がほしいと思う物」をビジョンとして設定します。
実は全く同じことは、以前パートナーだったシーマンを作ったゲームクリエイター斉藤ゆたかにも強く言われており、かれはそれを「願望」と表現していました。この願望こそが新しいものを作る鍵だと強く言われており、KMDに行ってから同じことを聞くとは思っていなかったので、軽く驚きだったりしているのです。
「デザイン思考」以外に、最近は「サービスデザイン」という類似の考え方や、「リーンUX」なんてのもあり、それについての記事を見ますが、リーンスタートアップもデザイン思考をベースにしているのが代表的で、大抵が似たような考え方です。さまざまな方法論やツールが用意されているのですが、奥出先生の授業を聞いてよかったなぁと思ったのは、これら全てのベースに「哲学」「ビジョン」という名の「願望」が下地になっているところでした。
つまり、いくら素敵なツールがあっても、このプロセスを進める人たちが「何をやりたいのか」「この世の中はどうあるべきなのか?」という信念が構築できてなければ、そこでできてくるものは絵に描いた餅以下の存在になってしまうということを示しています。
これが「デザイン思考」を表層的に取り入れたのに失敗する人が後を絶たない理由ではないでしょうか?!やりたいことが見えてないのにユーザー調査をしたって何もわからないし、なんとかマップを作っても「だから何?」になったりはしませんか?当然、それを元に作ったプロトタイプも心に刺さるものはできません。ここではイテレーションを回して、ビジョンや哲学は書き換えていくべきだということになっていますが、そもそも願望がないのにいくらサイクルを回しても願望は見えてこない可能性があって、何のために新製品開発を行うのか?!という部分を自分事として考えられる状況なのか?!は、すごく大切な入り口になると思います。
別に願望を持つことはデザイン思考だけの特権ではありません。それは新製品や新しいものを作るのに一番大切なことは、強烈な作りたいという気持ちがなければ無理だということであり、そこを様々な立場の人がそれぞれの立場で唱えていることについては、方法論とは別に着目するべきです。
そしてデザイン思考のプロセスでアウトプットされるものは、その「願望」を他人と共有するために説得力を構築し、チームや制作部隊と共有するためのツールでもあります。つまり、カジュアルな批判に対して負けないだけの根拠づくりと共有すべき資料を作るというのもデザイン思考の特徴です。それは元々が大企業の新製品コンサルから生まれた手法だからというのも大きいと思います。
そして「哲学、ビジョン」という基本的な部分と、最終的な製品の「コンセプト」が分離しているのはすごく大きな特徴です。つまり「やりたいこと」をいきなり実現するものを作って、誰も使える人がいないという状況を避けるのが、デザイン思考のプロセスでもあります。製品コンセプトは、哲学とビジョンを下地にユーザー調査を行い、プロトタイプを作り、固めていくという流れになっています。もし確固たる哲学が自分たちの中に存在するんだけど、実際の製品コンセプトが市場に受け入れられなかったとしたら、製品コンセプトの部分を変える「ピボット」をすれば良いということになります。
なお、余談ですが、2006年にペパボに入る前に、MOTの大学院に行くか、転職するかという選択肢を検討して、いくつか大学院の説明会に行ったことがあります。しかし、MOTにはこういった部分があまり感じられなかったので、大学院に行くのはやめて転職を選択しました。僕はWebの作り手ですから、文字通り「デザイン」で何かを解決する方法論を学びたかったのです。でもMOTは技術志向が強かったので、何か違うかなって思いました。Webはコモディティ化した技術の組み合わせだから、僕にとって必要なのは技術のイノベーションマネジメントではない、と思っていたのです。そういう部分も、このデザイン思考の本では、何故そうなるのか?!が説明されているので、実は相当目からうろこだったりしています。